小田原の「神田農園」(小田原市寿町5)が昨年9月に出荷を始めた「白い生キクラゲ」の栽培と出荷が加速している。
食物繊維、ビタミンD、各種ミネラルなどを多く含むため「食べる漢方薬」と呼ばれている「キクラゲ」。オーナーの神田智充さんは「食感も良くどのような料理にも合うことが知られるようになった。多くは海外から輸入した乾燥キクラゲだが、国産でしかも生で出荷する体制を完成させた。ここに来て軌道に乗り始めている」と話す。
神田農園は、ほぼ40年間にわたり洋ランのコチョウラン(胡蝶蘭)を生産していた。苗の育て方に工夫をして、花を咲かせる環境を体系化して独自の技術を完成させた。その後、季候の良いインドネシアで苗作りを行い、日本で花を咲かせる方法を確立した。
「そして忘れることのできない2021年」と神田さん。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中で苗を運ぶ役割を担っていたタイ航空が経営破綻し運行が一時停止。併せて、国内でコチョウランのニーズが激減。「一つの試練だが次への挑戦を開始する良い機会」と捉えてキクラゲ生産を始めた。「コチョウランもキクラゲも栽培する環境に共通点が多かった」と神田さん。コチョウランを育てていた温室を改良してキクラゲ生産拠点を完成させ2021年5月に栽培をスタートした。「一刻の猶予も止まっていることも許されず猛スピードで走り抜けた」という。
コリコリした食感のキクラゲと、プリプリとした食感の白いキクラゲを9月に出荷。「最初の利用客は、小田原市蛍田にあるイタリア料理店『Cuore Ricco(クォーレリッコ)』の小嶋一生オーナーシェフだった。自分のイメージしていたキクラゲを探しているときに私どものキクラゲに巡り合ってくれた」と振り返る。
これがきっかけとなり栽培と出荷に拍車が掛かる。現在では、農園での販売のほか、地域スーパーとの取引が始まり栽培と出荷に忙しい。「形も良くなく、味もしないし、香りもない。そんなキクラゲが調理すると際立つ脇役になり、時に凜(りん)とした主役にもなる。キクラゲは本当に魅力がある。特に白キクラゲには魅了される」と栽培の手を休めない。