箱根芦之湯温泉に1662年に創業した「鶴鳴館 松坂屋本店」(箱根町芦之湯、TEL 0460-83-6511)で今年、初めての新卒採用が行われた。
慢性的な人手不足が続いていた同館。人員確保のために派遣社員を入れるなどして乗り切って来たが、どんなに優秀な派遣社員でも必ず期限がある。新人が派遣されると、その度に教育する必要があり時間も労力も大変だった。
同館の若旦那である松坂滋彦さんは「ホテルや旅館で働きたい」と考えている新卒者を採用することでこの問題を解決することにした。昨年9月、遅いと分かりながらも大学やホテル学科のある専門学校を回り採用活動を始めた。
応募してきたのは今彩華さん。青森出身で東京にあるホスピタリティーツーリズム専門学校卒業。友人と箱根に遊びに来たときに丁寧に接してくれた販売員に巡り会い、「箱根には町全体にホスピタリティーがある」と感じ、応募したという。
老舗旅館初めての新卒採用が決定。社長(おかみ)と今さんの二人きりの入社式が行われた。今さんにとってはたった1人の入社式だった。1カ月が過ぎ、仕事にも慣れた今さんは同館の新たな戦力になりつつあるという。
松坂さんは「これからは人。歴史あるこの旅館を支えてくれる人材が宝のように感じる。人にサービスするのは人。人が大切な時代になると思う」と話す。