箱根登山鉄道・宮ノ下駅前「あじさい坂」にある「NARAYA CAFE(ならやカフェ)」(箱根町宮ノ下、TEL 0460-82-1259)で11月21日に開催される「屋根の上のヴァイオリンコンサート」の舞台作りが進んでいる。
計画では、カフェの屋根の上に特設の舞台を作り、そこで演奏。観客は、あじさい坂からコンサートを楽しむが、宮ノ下駅ホームからも見ることができる。既に設計図は完成し、建材の加工に入っており、組み立ては11月18日を予定。
「NARAYA CAFE」オーナーの安藤義和さんは「コンサートを行うに当たって密を避けるのは鉄則なので屋外で開催。なおかつ、今回のステージは足湯の正面に見える三角の屋根の上に特設する。まさしく『屋根の上のバイオリン弾き』のよう」と話す。
「NARAYA CAFE」がコンサートを開催するのは今回が2回目。2019年秋に発生した台風の影響で大きな被害を受けた箱根。箱根登山電車も運休が続いていたさなかの11月23日に第1回を開催した。安藤さんは「登山鉄道が止まり客足が途絶え、ただただ手をこまねいていてはいけない。行動しないと・・・。ということで最初にやったのがユースクラシックのメンバーを招いてのチャリティーコンサートだった」と振り返る。
それから1年。観光地「箱根」は、新型コロナウイルスによるパンデミックを経験し、いろいろなことが今までと変わったが、7月に箱根登山鉄道が復旧し、10月にはGoToキャンペーンが本格的にスタートした。安藤さんは「着実に観光地箱根の日常は戻ってきている。感染への恐怖や行動の制限で、とかくギスギスしてしまいがちな今日この頃。山を眺めて温泉に浸かることは、少しささくれ立ってしまった心も癒やす。まだまだ全快とまではいかないが、日常が戻った喜びをここらで表現しても良いのではないか。ということで、秋空の下、再びNARAYA CAFEでコンサートを企画した」と経緯を話す。
特設の舞台は安藤さんを中心に推進メンバーが手作りする。「実はNARAYA CAFEには手作りの歴史がある」と話す。
江戸元禄期(1700年前後)に湯宿としての営業を始めたといわれる「奈良屋旅館」が「NARAYA CAFE」のルーツ。江戸後期、奈良屋旅館の湯は湯船に映る三日月が満月になるまでで湯治をすれば、どんな難病でも快癒するといわれたことから名湯「三日月湯」として知られた。江戸末期には、諸大名やその家族が本陣として宿泊するようになったという。
幕末以降は外国人の人気の滞在先となり、奈良屋旅館は「Naraya Hotel」と改称。富士屋ホテルと外国人客をめぐって激烈な顧客争奪戦を繰り広げたが、1893(明治26)年に富士屋ホテルは外国人専用、奈良屋旅館(Naraya Hotel)は日本人専用とする協定が取り交わされ、大正時代まで続いた。
その後、奈良屋旅館は多くの政財界人に愛され箱根の老舗旅館として営業を続けてきたが、2001(平成13)年6月に300年余りの歴史に幕を閉じた。この歴史を受け継ぐのが「NARAYA CAFE」。安藤さんがカフェとして起業。2006(平成18)年7月から建築のプロの協力者を得て自らも加わり建築作業を行い、2007(平成19)年にカフェをオープンした。現在は、カフェ、足湯、ショップ、ギャラリーの各棟で運営している。将来の方向性は「ナラヤ計画」として立案済みで、建築作業は続いている。
21日の開催日には、そのノウハウを生かして屋根の上に舞台を組み立てて行う。この舞台で演奏するのが、ピアノの陶旭茹(トゥ・シュール)さんとバイオリンの西田早良さん。12時、14時、15時の3回ステージに立つ。入場は無料だが、投げ銭方式。舞台が屋根の上のため雨天の場合は中止となる。
安藤さんは「宮ノ下にコンサートの音色が響き渡るはず。ぜひお立ち寄り願えれば」と呼び掛ける。